スポーツものが苦手な私が、映画『ひゃくえむ。』を最高に面白いと思えた理由【ネタバレなし/ありの2部構成】

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「気になってはいるんだけど、陸上の話でしょ?」
そう思って、見ることを躊躇っている方もいるのではないでしょうか。

私は実はもともとスポーツ系の作品があまり得意ではありません

「あの有名なバスケのアニメ」にもハマれなかったくらいなので、100メートル走を題材にした『ひゃくえむ。』も、観る前は少し心配でした。

ところが…!これは最高に面白い!
しかも、ただ「陸上のアニメとして面白かった」ということではありません。

観終わったあと、私はなぜか、
「今日嫌なことがあったけど、明日も頑張るか…」
と静かにエネルギーが満ちているのを感じたのでした。

この記事では、まだ『ひゃくえむ。』を観ていない方には、
できるだけ内容を明かさずに「なぜスポーツものが苦手な私がハマったのか」を。

そして後半では、実際に観た方に向けて、私が特に心に残った場面を書いています。

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『チ。』から魚豊さんを知って、『ひゃくえむ。』へ

そんな私が『ひゃくえむ。』を観たのは、原作者の魚豊(うおと)さんを、去年アニメで夢中になった『チ。—地球の運動について—』で知ったからでした。

『ひゃくえむ。』が映画化されたことは知っていたものの、
残念ながら私は劇場で観ることができず、配信されるのをずっと楽しみに待っていました。
そして、ようやく観ることができたのが、夏休みの土曜の夜でした。

【この記事は上下2部構成です。】

  • 前半:ネタバレなし(まだ観ていない方向け。作品情報・配信・向き不向き)
  • 後半:ネタバレあり(観た方向け。私の心が動いたところの話)

途中に区切りを入れますので、これから観る方は前半だけ読んで、そっと閉じてください。

『ひゃくえむ。』はどんな映画?

『ひゃくえむ。』は、魚豊さんの漫画(デビュー作)を原作とした劇場アニメです。

作品データ

項目内容
公開2025年9月19日
監督岩井澤健治(『音楽』)
原作魚豊(『チ。—地球の運動について—』の作者のデビュー作)
上映時間106分
トガシ松坂桃李
小宮染谷将太
海棠津田健次郎
財津内山昂輝

映画『ひゃくえむ。』のあらすじ

物語は、生まれつき足が速いトガシと、つらい現実から逃げるように走り続ける転校生・小宮を中心に進みます。

ふたりは100メートル走を通じて、ライバルであり親友でもある関係になっていきます。

そして数年後、日本のトップランナーとなったふたりが、ふたたび同じ舞台で向き合うことになります。

あらすじとしては、これくらいにしておきます。

この作品については、細かく説明するより、実際に観たときに何を感じたかのほうが大事だと思うからです。

スポーツが苦手でも楽しめたのはなぜ?

これが、この記事でいちばん伝えたいことです。

スポーツものが苦手な人の多くは、たぶん「勝った/負けた」や「キラキラした青春」に気持ちが乗っていかないんだと思います。スポーツ経験が乏しいからか、私もそうでした。

『ひゃくえむ。』が違うのは、画面に映っているものが「勝敗」「努力が実る話」ではなくて「人間の内側」だからです。

それぞれのキャラクターの性格や想いがセリフや画像から滲み出てくる。
その人間らしさに共感し、ふふっと笑えて愛着が湧いてくる。

結果が出なかった時、そこからどう歩んでいくのか。
一度立て直したと思ったのに決定的なオワリを突きつけてくる残酷な現実。
何を思い、どんな行動に出るのか。

その生々しさがスポーツに詳しくなくても、スポーツをしていなくても、
作品に入り込めた所以だと思います。

『ひゃくえむ。』こんな人に勧めたい/こんな人には向かないかも

私が『ひゃくえむ。』を勧めたいのは、こんな人|大人の目線

私がこの作品を特に勧めたいのは、スポーツが好きな人だけではありません。
むしろ、私のようにスポーツものが苦手な人にこそ、一度観てほしいと思っています。

特に、

  • 学生時代などに、スポーツに限らず、勉強や仕事、創作活動や研究など、
    何かに本気になったことがある人
  • 頑張ったのに、思うような結果が出なかった経験がある人
  • 諦めたことや、途中でやめてしまってモヤモヤとした気持ちを抱いている人
  • 「自分は何のためにやっているんだろう」と考えたことがある人
  • 社会生活で愛想笑いが上手くなった人

こういう人には、刺さるところがあると思います。

スポーツ経験は必要ありません。

100メートル走の知識も必要ありません。

私自身がそうだったからです。

逆に、合わないかもしれない人

この作品が合わない人はほとんどいないのでは、と思います。
しいて言えば、独特な絵柄が苦手な人には、少しハードルがあるかもしれません。

また、いわゆる「少年漫画らしい勧善懲悪」や、分かりやすく気持ちのいいハッピーエンドを期待している人にも、少し違うと思います。

『ひゃくえむ。』には、どうにもならない現実と向き合う場面があります。頑張ったら報われる、悪い人が負ける、という形の話ではありません。

そのため、幼稚園児から小学校低学年くらいの子には、内容的に難しい部分があると思います。

ただ、だからといって「小学生は観ないほうがいい」とは思いません。その年齢で全部を理解できなくても、何か一つ残るものがある作品だと思うからです。

子どもと一緒に観られる?|中1・高1の目線

今回、親子で観て面白かったのが、同じ映画を観ているのに、受け取り方が様々だったことです。

中1の娘は

「人間模様がすごく面白かった。『チ。』のほうが好きだけど、陸上をやってたらこの作品ももっと面白く感じたと思う」

と言っていました。文系女子でも映画鑑賞後の表情は、大きな充足感を得ているようでした。

そして、スポーツをやっている高1の息子。彼の感想は、たった一言でした。

人生が100メートルにつまってた

彼は主人公が小学生時代の場面が印象に残っているそうで、
友情の始まりや、小宮に眠る本気(ガチ)に、輝くもの、真髄を見たのだと思います。

年齢や性別も、スポーツ経験も違う子どもたちが、
どちらもこの作品を「走ることだけの話」ではなく受け取っていたのが面白いなと思いました。

ぜひご家族や友人と見る機会があれば、どこが印象に残ったか聞いてみるのも面白いと思います。

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── ここから先は、ネタバレを含みます ──

これから観る方は、ここで閉じてください。前半で、伝えたいことはお伝えました。
観終わってからまた来ていただけたら、とてもうれしいです。

【ネタバレあり】『ひゃくえむ。』忘れられない2つの場面

雨の総体。トガシが、画面から消える

いちばん残っているのは、高校の総体で、トガシが小宮に負ける場面です。

トガシにとって、あの敗北の意味の重さが、たまらなかった。中学で伸び悩んで、それでも高校での出会いをきっかけに、もう一度前を向けたところだったのに。やっと明るいほうに向き直したその矢先に、格下だと思っていた相手に抜かれる。

そしてあの描写。

雨が、だんだん強くなっていく。強くなるというより、雨に塗りつぶされ、上書きされるように見えました。画面から色が抜けて、モノクロになって、その中にトガシが紛れて、こちらから見えなくなっていく。

負けた人間の内側が、そのまま画になっていました。

公園で泣くトガシと、逃げていく子どもたち

もう一つは、大人になったトガシが、公園で泣く場面です。

大人になったトガシは、現実を受け入れ、社会人としてそれなりの生活をこなしている見えました。
「何のために走るのか」という問いに、彼はちゃんとした答えを持っている。「誰かのために走る」と。

……立派です。誰も文句が言えない答えです。
でも、それは大人の「フリ」をしていただけでした。

そのあとさらに大きな挫折を味わったトガシは、綺麗事では耐えきれなくなり感情が溢れます。
公園で、初対面の子どもたちの前で号泣してしまうのです。

子どもたちはドン引き…!「こいつ、やばい。」逃げるように立ち去っていく。

ちょっと笑ってしまったけどでも同時に、心の中で「トガシ、つらいよね」と言っていました。
笑えて、つらい。あのリアルさと心の共鳴が忘れられません。

そして、泣いたあと。
泣ききったトガシの表情が変わります。
鋭い眼光は、大人の「フリ」をやめた顔。
現実を受け入れて、そのうえで逃げる覚悟を決めた顔。しびれました。

「何のために走るのか」その答えは…

「ガチになるため」という動機に勝るものはない

トガシの「誰かのために走る」は、全くの嘘ではなかったと思います。
ただ、挫折を支えきれるものではありませんでした。

彼が最後にたどり着くのは、もっと素朴で、もっと身勝手で、
もっとも強い動機です。
ガチになるため。

誰のためでもない。ただ集中して100メートル、たった10秒という瞬間にかける

物語の終盤、日本選手権の舞台で、
「記録のため」に走ってきた小宮もまた迷っています。
その小宮にトガシの覚悟が伝わり、小学生の頃、
ただガチになって競争していただけの純粋な感情が呼び覚まされます。

そして走る2人の表情に浮かんでいたものは──
人間としての喜びとしか言いようがないものでした。

最後の最後、はっきりとゴールシーンが描かれないまま終わるのも
この物語も人生も「主軸は勝敗ではない」ということを見事に表している気がして、
「何かいい」って思いました。

『ひゃくえむ。』に登場するキャラクターの魅力

トガシと小宮。才能と、変態的努力家

このふたりの対比が、本当に面白いと感じました。

トガシは天性で足が速い。才能の持ち主です。
少し大人びていて、社会性がある。空気が読めて、周囲との折り合いをつけられる。
だからこそ、「それっぽい答え」を用意できてしてしまう。

愛想笑いで取り繕う場面が痛々しくも共感してしまいます。

小宮は、変態的な努力家です。
しかも本人は、努力を努力だと思っていない。
ひたすら自分の軸だけで生きている。

ボロボロの靴を人目を気にせず履いていたり、
電車が不便という理由で2時間かけて自転車通学したり。

「自分がいいと思ったからやる」その姿勢に羨ましさすら覚えます。

わかりやすい「天才 vs 努力」ではく。
物語中盤では社会性がある側のほうが苦しむという展開ながら、
脇目も振らずただ記録を追い求めて来た側も、
ついには「何のために?」という疑念に襲われる。

そして、仁神・財津・海棠をはじめ、脇を固める人たちが全員魅力的でした。
誰ひとり、主人公を引き立てるための駒になっていない。全員が、自分の100メートルを生きている。

海棠の言う「現実逃避」とは

海棠のセリフに、現実を直視したうえで現実逃避をするのだ、
という意味のことを言う場面があります。

また、直視しないと逃避できない、と。

現実逃避って、一般的には悪いことだとされています。
でも、海棠言う逃避とは、「自分のことを自分が一番信じて愛しているということ」。
また、「それを心から愉快に思うこと」
なのだと思います。

子供のように純粋な「自分はできるぞ」という根拠のない自信。
そして、キツイ現実を突きつけられてなお「逃避するぞ」という強い意志。

公園で泣ききったあとのトガシの顔は、まさにそれでした。

私が嫌なことがあった夜に観たこの映画で、なぜ「明日も頑張るか…」に変わったのか。
その答えがここにありました。

まとめ|ガチになるために、走る

スポーツものが苦手な私が、最後まで観られた、どころか、最高に面白いと思えた作品でした。

理由をもう一度書いておきます。

  • これは競技の話ではなく、人間の内側の話だから(陸上を知らなくてもOK)
  • キャラクターそれぞれの個性が際立ち魅力的、応援したくなるから
  • ストーリーのリアルさに少しの笑いと心の共鳴が生まれるから

もし今、何かに打ち込んでいて、それが報われていない方がいたら。
あるいは昔、何かをあきらめたまま、その記憶をしまっている方がいたら。

106分だけ、時間を作ってみてください。

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